■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ 2002/5/15 No.134 週刊メールジャーナル 読者数9329人(前回) ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ またもや「真実」を報道できないマスメディア 瀋陽総領事館への不法侵入を追及できない日本外交の弱み 若生疆雄(投稿) 中国・瀋陽の日本総領事館構内に中国武装警官が侵入し、北朝鮮の住民5人 を連行した事件は、日中間の外交課題としてどのような政治決着をつけるのか、 国際的な注目を浴びている。 連日のマスメディア報道にもかかわらず、依然として真相が伝わってこない のはいつものとおりだ。 関係国への政治的影響を慮り、奥歯にものの挟まったような、歯切れの悪い 報道が繰り返されているからだ。 一部の政治家や評論家が弱腰の外交姿勢を、反共、反中国の立場から批判し ているが、多くの国民には、それらの声も犬の遠吠えにしか聞こえない。 その人たちの中には、外交利権にまみれた政・官癒着を暴くことができなか ったり、鈴木宗男の政治資金の恩恵に与ったり、官邸・外務省間の予算流用の 無法体質を暴けなかった人たちも多いからだ。 マスメディア報道は、はじめ、総領事館の門前から5人が連行されたと報じ た。これは、総領事館が、最初、5人全員が敷地外で拘束されたと伝えたから だ。 ところがこの5人には、北からの亡命者を支援する韓国NPOが関与してお り、事件のすべてがビデオに収録され、世界中に配信された。 この衝撃的な映像は、日本でも9日夜、テレビ各局のニュース番組で流され、 国民に大きなショックを与えた。 それを見ると、総領事館内に駆け込んだ2人の男性だけでなく、幼児1人と 2人の女性も、一旦は完全に敷地内に入っており、これを取り押さえるために 中国警官が構内に侵入しているさまが見事に映し出されている。 治外法権のはずの領事館敷地内に侵入して家族を連行した中国警察は、明ら かに日本の主権を侵害しており、非は全面的に中国側にあるとしか見えない。 中国警察の暴挙に外務省は抗議し、連行された家族全員の引渡しと事態の説 明を求めたのは当然の外交態度だ。 これに対して中国側は、一定の時間を稼いだ上で、ウィーン条約31条の3 項、「受入国は一切の適切な手立てを講じ、領事館を侵入や損害から守らなけ ればならない」を持ち出してきた。 つまり、「(今回の行為には)世界の反テロリズムの背景があり、中国の護 衛官が、不法に日本総領事館に入ろうとする身分不明の人物を連れ出したのは、 総領事館と館員の安全を守るためだった」、と主張したのである。 しかしながら、幼児を負ぶった女性がテロリストのわけがなく、この中国側 の論理は強引に過ぎ、日本だけでなく国際世論を納得させるにも無理があるの は明らかだ。 この中国側の主張は、事件翌日の9日に表明されたのだが、さらに11日に なって中国外務省は、事件後行った調査と事実確認の結果として、武装警官は 副領事の同意を得て領事館に入り2人の男性を連行した。したがって中国側に 非はないと発表した。 これに対して日本側は「同意の事実はない」と真っ向から否定。真相は一挙 に見えにくくなった。 この不透明さの原因はどこにあるのだろう。 双方が自分に都合のいいことだけを言い、都合の悪いことを隠しているから だ。しかし、両者の主張を突き合わせてジグソーパズルのようにはめ込んでい くと、そこから真実が浮かび上がってくる。 ◆館内への立ち入りを許した「真相」に交換条件 門外に女性2人と幼児が引きずり出されたところへ駆けつけた副領事は、 「悲鳴を聞いて駆けつけたが、男性2人が領事館の建物内に入ったことは知ら なかった。女性達を拘束した警官の話から、領事館の建物内に彼らが入ったこ とを知って建物に戻ると、男性2人がビザ申請待合室のベンチに座っており、 彼らと話す間もなく武装警官が彼らを連行した」と言っている。 しかし、これは明らかに嘘だ。 男性2人と日本人職員が全く接触していないなんて冗談が過ぎる。 飛び込んでき2人は、命を賭けて亡命しようという人たちだ。 送還されれば公開処刑が待っている。文字通り「必死」であり、領事館スタ ッフでも現地採用の中国人職員なんて信用できるわけがなく、何が何でも日本 人職員と話をさせてくれと言ったはずだ。ましてや当該副領事はビザ担当の副 領事ではないか。経過時間から見ても、ビザ申請待合室に飛び込んできた彼ら と接触しなかったはずがない。 彼は2人と話し、「分かった。自分が外を見てくるから、そこに座っていな さい」と言ったから、男性2人はベンチに座っていたのだ。 頼るべき日本人職員とも接触できない焦りの中で、誰がのほほんとベンチに など座っているものか。座っていられるものか。 2人の必死の懇願で外に飛び出した副領事は、途中から歩き出す。 すでに女性達が門外に引きずり出されているのが見えたからで、敷地の外で は日本の主権が及ばないから「もう遅い、手遅れだ」と思ったのだろう。 彼が言うように、女性達の悲鳴が聞こえたので「なんだ、どうした!」と訳 も分からず建物から飛び出したのなら、つまり、何が起きているのかを全く把 握していなかったのなら、なぜ途中から歩き出すのだ? そのまま門のところまで走っていかなければおかしいではないか。 言葉は分からなくても、男性2人の必死の訴えで事情を把握した副領事は、 遠くから女性達の様子を見ただけで「もう遅い」と判断できた。それで彼は歩 き出し、その場を取り繕って警官の帽子などを拾ったのである。 しかしながら、「もう遅い」でこの事件が済ますわけがない。何とかしなけ ればならぬ。それで副領事は警官たちに話し掛けた。 警官たちにとって副領事の反応は意外だった。普通なら強硬に抗議し、亡命 希望者の身柄を要求するはずなのにこの弱腰。だったら、建物の中に逃げ込ん だ2人も捕まえられるかもしれない。 そこで両者の駆け引きが始まった。 これが亡命を求める男性達が待合室で過ごした10分間である。 警官たちは男性2人を捕まえたい。 副領事は女性2人と幼児の身柄を取り戻したい。 具体的に何が話し合われたのかは知らないが、とにかく警官たちは何らかの 交換条件で男性の事情聴取をしたいと申し入れ、建物内へ入る許可を得た。 ところが、いざ待合室に入ったら、いきなり革ベルトで男性2人を縛って警 官詰め所に連行した。 「それでは約束が違う」と、外出から戻った警備担当の副領事が門の外へ出 てきて抗議し、5人の身柄を詰め所から移動させないように要求。警官側もこ れを了承した。 それはそうだ。「事情聴取」というから建物に入るのを許したわけで、中国 側の言うように、「2人を連行してよいか」などと聞かれて、「いいですよ」 と言う領事がどこにいるだろう? ◆「ありがとう」とお礼を言ったとされる「ほんとの意味」 中国側が約束を守らなかったから、日本側の「身柄を移送するな」の要求を 呑まざるを得なかったのだ。 従って、日本側が口にした「謝意」は「日本側の対応を検討する間、5人の 身柄を移動させない」と約束してくれたことに対する謝意であって、それ以上 のものではない。誰が「公安部に移送する」と言われて、「ご協力ありがとう」 などと言うものか。 そもそも、「公安部に連れて行っていいか」などと、なぜ中国側が日本側に 尋ねなければならないのか? それこそ「5人の身柄は移動させない」と、副 領事に約束したからに他ならない。 5月11日の朝日新聞夕刊には、武装警官が日本側の許可を得ていたなら、 8日の時点で報告が上がっていたはずで、中国政府はなぜ11日まで発表を延 ばしたのか、その理由を、「慎重に対応していたのか」、「有利な立脚点を探 していたのか」と書いている。 更に12日の記事には、「『総領事館の同意を得た』という中国外務省談話 は、念入りな聞き取り調査にもとづき発表されたもので、中国側は自信を持っ ているものとみられる」とある。 私に言わせれば、中国側の自信のもとは、「念入りな聞き取り調査」にもと づく真実の把握によって生み出されたのではなく、「『真実』は、日本側から は出てこない」と判断したからである。 中国は対外的にはともかく、内政においては人権に無頓着。 したがって、命令であれば、警官だろうと誰だろうと徹底的に調べられる。 実際に調べたはずだ。それこそ犯罪者の取調べのように攻め立て、何が起きた のか、武装警官と副領事の間でどんな会話が交わされたのか、すべてを調べ上 げたはずだ。 そして、その結果明らかになった真実は必ずしも中国側に有利ではなかった。 だから、当初はこじつけに等しいウィーン条約などを持ち出して、その場を 凌ぎ、日本側の反応を待ったのである。 するとどうだ。日本外務省は右往左往で真実の把握には程遠いありさまだ。 理由は簡単。日本側の当事者たちは、自分たちが犯した過ちをどう隠すか、 失態をどう誤魔化すかと、自己保身に必死だからなのだ。 飛び込んできた亡命希望者と接触したなどと言ったらどうなる? 今でさえ、「門の傍でのあの対応は何だ」と非難ごうごうなのに、接触があ って状況を把握していたことがばれたら副領事の立場はなくなる。 だから、「接触はなかった」と言い張らざるを得ない。 さらに、警官に建物内への立ち入を認めたとしたら、亡命を求めた2人の男 性を連行された全責任を背負わなければならない。 「まさか、いきなり革ベルトで縛ってしょっ引くような、乱暴なことをする とは思いませんでした」、が本音だがそんな弁解をしたって通るわけがなく、 懲戒免職間違いなしだから「同意はなかった」と、これも否認する。 かくして嘘が次々に積み上がる。真実は遠くなりこそすれ、近くなることは ない。 ◆「亡命」にかかわりを持ちたくない日本政府の外交方針が混迷のもと 他方、真実を追究すべき総領事館も大使館も、そして外務省までも、自分た ちの面子にばかりこだわり、真実の追究は二の次としか見えない。 事件から1週間経っても、「なるほど」と思える「真相」はいまだに出てこ ないではないか。 自己保身と省益の維持に汲々とする、それが外交官や高級官僚の実態なのだ。 だから中国は、これなら日本側から真実が出てくることはないと判断し、 11日の発表になったのである。 そのうえ、発表された中身は、必ずしも嘘ばかりではない。 副領事は武装警官の立ち入りに同意したし、携帯電話で上司と連絡をしたし、 「謝、謝」と礼も言った。 もちろん、「2人を連れ出してもいいかと聞いたらOKと返事があった」、 なんて嘘っぱちだが、どれが嘘で、どれが本当かの問題で的確に反論するため には真実を曝け出さなくてはならず、真実を出さないで反論しても有効な反論 にはなりえない。 日本側が真実を出せない以上、嘘を混ぜても大丈夫というより、大部分の嘘 に事実をちょこっとまぶしておけば十分日本側と渡り合える、逃げ切れる、こ のように中国側は考えているのである。 日本も舐められたものだ。 今回の事件の焦点である武装警官の総領事館への立ち入りに、「同意した」、 「同意していない」の水掛け論は止め、中国側の非を証明するためには真実を 明らかにするしかない。 立ち入りに合意した条件を明らかにしない限り、武装警官の違法な連行(= 中国側の非)を責めることができない。 外務省は、幹部を事実調査のために瀋陽に派遣したとはいえ、「同意してい ない」を大前提にして中国側に反論する材料を探すというのだが、これでは、 「事実調査」とは名ばかりの、最初から分かっている、身内擁護のおざなりの 結論しか出せない。 ここは亀井静香ではないが、副領事は当然のこと、総領事、大使、場合によ っては外相の首を切ってでも、外務省に真実を出させて中国と渡り合い、ねじ 伏せて、彼らに非を認めさせるしかない。 そして、中国側に非を認めさせるということは、日本の面子の問題だけでは ない。北朝鮮から逃れてきた家族を自由の国へ逃がしてやるためにも必要不可 欠なのである。 ___________________________________ このメールマガジンは、インターネットの本屋さん『まぐまぐ』を利用して発 行しています。( http://www.mag2.com/ ) 配信を希望または中止されたい 方はこちらでどうぞ。 http://www.mail-journal.com/touroku.htm ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ 週刊メールジャーナル 2002年5月15日号 第134号(水曜日発行) ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ 編集発行人:川崎 明 / 発行所:メールジャーナル社 〒130-0026 東京都墨田区両国2-1-4 第2西村ビル303 ホームhttp://www.mail-journal.com/ メールadmin@mail-journal.com 転載・再配布等には事前にメールジャーナル社に許可をお取り下さい。 ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ |