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 2004/8/25 No.248    週刊メールジャーナル  読者数11488人(前回)
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●「捜査検察」が弱体化する中での松尾邦弘新検事総長の“覚悟”
(会員制経済情報誌『現代産業情報』8月15日号より転載)

 善くも悪しくも「バランスの人」だった原田明夫検事総長が勇退、7月25
日、松尾邦弘東京高検検事長が第22代検事総長に就任した。後任の法務・検
察No.2の東京高検検事長となったのは但木敬一法務事務次官であり、東京地
検検事正には鶴田六郎法務総合研究所長がついた。

 かつて特捜検事として、ロッキード事件で贈賄側の丸紅幹部を取り調べたこ
とがあるとは言え、松尾総長は捜査の現場にそれほど詳しくはない「法務行政
畑」の検事である。但木東京高検検事長も鶴田東京地検検事正も同様。したが
って、「政官財」の睨み役として恐れられている東京地検特捜部を指揮する立
場の検事総長―高検検事長―検事正という縦ラインの検察首脳は、いずれも「
摘発」より「秩序」を重んじる法務官僚派であり、「検察捜査は弱体化する」
(検察OB)という声が挙がっている。

 「法務官僚歴の長い検察幹部は、霞が関や永田町の人脈が太くなると同時に、
捜査現場をほとんど知らず、『権力の腐敗』を肌で感じることがないためか、
犯罪の摘発に熱心ではない。一方、捜査派検事は使命感に燃えて『癒着の構造』
を断とうとするため、通称『赤レンガ派』の法務官僚派検事とはぶつかること
が多い。双方のバランスが取れていればいいが、片方の派閥で固まるとおかし
なことになる。今回の人事がそのいい例。検察首脳があれだけ『赤レンガ派』
で揃えば、検察捜査が政官界に遠慮したものになるのもやむを得ないだろう」
(同)

 こうした“観測”に、「捜査派検事」の代表ともいえる井内顕策特捜部長が
神経を尖らせているのだという。

 「今回の首脳人事の結果、『永田町への検察捜査が弱腰になる』といった週
刊誌報道が幾つかありました。それに対してもっとも怒っていたのが井内特捜
部長。『何も知らずに無茶苦茶なことを書きやがって』と、我々に対して不満
をぶつけることもあった」(大手マスコミ司法記者)

 おそらく井内部長の怒りは、永田町にうまく切り込めない苛立ちのためでも
あろう。一時は内偵を始めた日本道路公団疑惑は頓挫、東京ゼネラル事件は
「政治家を狙え!」と、激を飛ばしたにも関わらず、単なる商品先物会社の刑
事事件で終始した。

 そして今、「参院選後に、政界ルートが大きく展開する」と言われた日本歯
科医師連盟(日歯連)事件は、吉田幸弘前代議士を横領罪で起訴したものの、
橋本派への1億円献金問題など、破天荒な政治献金を繰り返してきた日歯連政
界工作の“本線”には辿り着けないでいる。

 吉田被告は前代議士とはいえ、所詮は日本歯科医師会(日歯)の“傀儡”で
あり、日歯連政界工作の“窓口”に過ぎない人物である。その政治家が、日歯
連のカネを横領したというのでは、被害者は日歯及び日歯連ということになり、
何のために日歯連の政治資金規正法違反捜査に着手したのか分からない。

 捜査派検事として人並み以上のプライドを持つ井内部長は、事件の本質に迫
れない捜査を繰り返していることへの忸怩たる思いがあろう。それを「検察首
脳人事」との絡みで語られることなど許せないのである。

 もっとも地検特捜部と二人三脚を組み、報道でこれをサポートする大手マス
コミの中には、日歯連事件の“不発”に理解を示す奇妙な社もある。

 「日歯連 橋本派へ1億円 規制法捜査に難題」という見出しで、8月5日
の朝刊で報道した『朝日新聞』はその典型だろう。

 この日、マスコミ各社は前日の「吉田前代議士」の起訴を受けて、今後の捜
査状況を伝えた。年間に17億円もの政治資金を集め、それを永田町にばら撒
く日歯連の政治資金規正法疑惑は、派閥や多数の国会議員に及んだ。その中で、
最も明白な疑惑として浮かんだのが「橋本派への1億円」であり、それを「今
後の焦点」として各社が伝えるのは当然とはいえ、『朝日新聞』の論調には首
を傾げざるを得なかった。

 「まず、1億円の授受そのものを規正法違反に問うことはできるのか。答え
はノーだ」

 こんな書き出しで始めた『朝日新聞』は、5億円ヤミ献金事件で同じように
問題となった金丸信元自民党副総裁のケースをあげ、金丸献金が「150万円
の量的制限違反」であったのに比べ、「今回のような政治団体間の金銭のやり
取りに量的制限はなく、日歯連から平成研(橋本派)への巨額献金があっても、
罪に問われない」と書く。

 まるで自分が裁判官にでもなったかのような不遜な物言いである。

 読者は新聞に「法的解釈」を望んではいない。「1億円の小切手を渡した」
と日歯連の臼田貞夫元会長は言い、その小切手を受け取ったはずの橋本龍太郎
元首相は「記憶にない」と惚け、同席した野中広務元幹事長、青木幹雄参院議
員会長は口を濁すのに、会計責任者の滝川俊行氏は受領を認めて、収支報告書
を訂正している。

 マスコミが問題にすべきは「法」より「モラル」であり、「常識」である。
その立場をわきまえず、常識ある大人が想像し得る政治家のウソを、そのまま
認めて「不問」にすることを当然とするような記事に何の意味があるのだろう
か。

 あるとすれば、事件の本質に到達できなかった特捜部への“配慮”であり、
こうした読者より当局におもねるような記事づくりは、記者クラブ制度に染ま
ったマスコミの陥りやすい致命的な欠点だが、実はこうした日歯連事件の終結
ムードに危機感を抱いているのが、松尾検事総長だという。

 「こんな中途半端な終わり方をして国民が納得するかという思いを、松尾さ
ん自身が持っています。実際に1億円を“配布”したのは当時事務総長だった
野中と言われているのですが、野中を尊敬している滝川は決して口を割らない
でしょう。だとすれば否認のままの滝川を『略式起訴』で済ませることになる。
それでもいいのか。松尾総長自ら、1億円の使途を徹底的に追及するよう指示
を出す可能性があります」(司法記者)

 また日歯連では、公明党の坂口力厚生労働相の親族が代表取締役を務める調
剤薬局チェーン会社と関係企業から、坂口厚労相の政党支部や後援会に約25
2万円(4年間)が献金されていることが明らかになった。この問題を捜査す
るとともに、「坂口絡みの別件」についても意欲を燃やしている。

 さらに松尾総長は、就任早々、検察内部の「ある重大事件」(検察関係者)
を抱えて憂慮しているという。

 「現役の検事長クラスの大物に贈収賄疑惑があります。法務省矯正局長時代
の業者との癒着が発端です。著名新聞記者がこの情報と資料を持ち歩き、検察
を揺さぶっている。松尾総長は仕掛けの得意なこの記者との取引に応ずること
なく、内部からウミを出そうとしています」(同)

 もともと注目されやすい役所ではあるが、法務・検察のトップとなった松尾
総長の動向から当分、目が離せない。

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【編集後記】

 24日、夕刊各紙は、東京地検特捜部が旧橋本派(平成研)の政治資金収支
報告書の虚偽記載疑惑について強制捜査に乗り出す方針を固めたとの前打ち報
道を流した。

 橋本元首相も事情聴取の対象になるという。野中氏、青木氏については触れ
ていないが当然事情を聞かれることになるだろう。

 これは、小泉首相による党・内閣人事への影響を睨んだ法務・検察の動きで
はあるが、問題は、永田町内でいかなる落しどころが話合われるかにある。

 仮に、この動きが平成研叩きを狙った小泉側の仕掛けだったとしても、多く
の国民は、自民党内の権力闘争にだけ、この事件が利用されることを願っては
いない。

 1億円という巨額な政治資金が、なぜ帳簿に記載されずに、闇から闇へと消
えていったのか、その必要性と行き先を明らかにすることを期待しているので
ある。

 これからマスメディアがいかなるジャーナリズムを展開できるのか、関心を
持って注目しようではないか。

 マスメディアによるジャーナリズムといえば、アテネ五輪報道では、なかで
もTV放映では、これでもか、これでもかと「ニッポンがんばれ!」を展開し
ている。

 実況アナウンサーが、甲高い声で超楽観的な見通しで「ガンバレ!」を連呼
しても、男子サッカー、女子バレーボール、野球などのチーム競技は、出発前
の評判・期待にそぐわない実績に低迷している。

 この耳障りな実況放送やインタビューは、これができることを最低条件にア
ナウンサーが選抜されているとNHKの先輩は指摘する。

 メダル獲得数の新記録は、大部分個人競技がもたらしたものだ。これは選手
の選抜方式、指導育成の方法など、過去のしがらみを排除した競技が大きく貢
献している。

 これに比べ、前記のチーム競技では、旧態依然とした育成・選抜を競技団体
が牛耳っていることが指摘されている。

 ことに、プロ野球のごたごたを見るにつけ、早急な構造改革が必要なことを
痛感する。このままなら、北京に代表を送ることはできないのではないか。

 マスメディアがジャーナリズムであろうとするならば、「ガンバレ!」を絶
叫するだけでなく、冷静に分析した勝・敗因を報道をすることこそが、北京五
輪のために必要なことではないか。
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