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  2006/5/10  No.333   週刊メールジャーナル  読者数11904人(前回)
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●偽装事件逮捕――警察は「本質的な対処」ができるか?
(会員制経済情報誌『現代産業情報』5月1日号より転載)

 「決算を粉飾したとされる建設業法違反の容疑は、刑罰を科すまでの悪質性
はない。耐震偽装について聴くために逮捕するのなら、別件逮捕だ」――。

 耐震偽装事件をめぐり、木村建設社長らの弁護人は、報道陣の取材にこう話
したという。

 いかに非上場企業であれ、粉飾決算が「悪質さはさしてない」という主張に、
与することはできないが、一定の説得力はある。「別件逮捕」という指摘であ
る。

 警察当局はダンボール箱にして4000個以上という膨大な資料を偽装関連
企業から押収した。

 姉歯秀次元1級建築士はもちろんのこと、木村建設、ヒューザー、総合経営
研究所(総研)……と、あらゆる関連企業の“ほこり”を、重箱の隅をつつく
ように探し回った。

 偽装を見逃し続けた民間検査機関「イーホームズ」の見せ金増資疑惑などは、
そうして発覚した“ほこり”の典型的なものであろう。

 構造計算書偽造という「犯罪」に対する罰則規定が、建築基準法の虚偽記載
の50万円以下の罰金という微罪扱いゆえに、警察当局は偽装事件の立件に知
恵を絞らなければならなくなった。

 ヒューザーを軸とするマンションルート、総研を頂点とするホテルルートの
双方で、関連企業全体を詐欺罪で一網打尽にするのが自然な発想。しかし、現
実にはそう簡単に進まない。

 そこで取り敢えず警察当局が手を着けたのが、“叩いて出たほこりで”立件
していくという手法である。何やら、オウムを壊滅させていった公安の微罪逮
捕の連続にも似た光景である。

 警察当局も今の捜査のあり方がベストだとは認識していない。木村建設の粉
飾決算やイーホームズの見せ金増資、姉歯元建築士の名義貸しが、偽装事件の
本質を突いた摘発だとは考えていないからだ。

 それでも当局がこうした「別件逮捕」に踏み切らざるを得ないのは、政府が
公的支援を決定した際、「関係業者の徹底的な刑事責任追及」を明示してしま
ったからだ。この瞬間から偽装事件は名実ともに「国策捜査」となったのであ
る。

 幸運なのは、責任を一切認めようとしないイーホームズが、今回の見せ金増
資疑惑についても「増資は適法」と非を認めないことに象徴されるように、偽
装関連企業がいずれも言い訳を繰り返すことに世論の反発が向いており、警察
捜査の「本質を突いていない」ことへの批判が出ていないことだ。

 だが、これも時間が経過し、世論が冷静になれば、日本の警察の能力に疑問
を呈する向きが出てこよう。

 とはいえ、法の不備を強いられながらの、偽装事件の本質を突いた捜査を求
められるのには、警察当局に一定の同情を禁じ得ない。

 本来、監督官庁である国交省が、この事件を行政的に厳罰に処すのが筋であ
った。しかし、公明党大臣を擁した不運もあり、国交省は支援策に追われ、偽
装の事実関係の解明は全くできず、警察は丸投げを受けた。

 補償策としての最大の焦点だったデベロッパーの強制保険加入についても、
業界の反対を抑えられず、国交省は結論を出せていない。この国のあらゆる機
関は、偽装事件について満足な対応をしていないのである。

 そもそも政府が公的支援を決めた背景には、自民党の選挙対策の色彩があっ
た。その自民党は、衆院千葉7区補選で、小沢民主党に敗れた。この程度の小
泉自民党の浅はかさに国交省は振り回され、ツケが警察当局に回されたのであ
る。

 与党、監督官庁が耐震強度偽装という特異な事件に「本質的な対処」をでき
ていない中、警察当局が刑事責任追及という最後の手段で、「本質的な対処」
ができるか、その帰趨を見守りたい。

 別件逮捕でスタートした刑事責任追及が、その後、事件の本質を突く刑事事
件に発展させられるか否か、“ほこり”だけで捜査が終結すれば、この国は政
治も行政も警察も、偽装事件を処し切れなかったことになるのである。

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【あとがき】

 ヒューザー・小嶋社長、総研・内河所長の逮捕が遅れている。理由は、詐欺
の意図が立証できるかどうか、いまだに確信がもてないからだという。

 すでに逮捕された容疑者らと協議・共謀の事実が掴めないうえ、それぞれの
間でも、依頼や指示や強要といった事実が出てこないからだ。

 しかし、むしろこれほど怖い事実はないのではないか。依頼も、指示・命令
も、強要もなくて、どうしてそれれぞれがこのような“偽装的”な仕事をする
ことができたのか。

 つまりは、お互い「仕事が欲しい」「カネが欲しい」から、“阿吽の呼吸”
で、行政の隙間を突くような仕事ができたのではないのか。

 実は、建設工事の“偽装”とは、そもそも程度問題であって、構造計算書を
改ざんしたり、設計図どおりの鉄筋を使わなかったり、工事の途中で一部設計
変更をしたり、他にもさまざまな手練手管で、実際の工事費を安上がりにする
のは当たり前。

 あからさまな“偽装”こそ職業倫理感が抑えてきたものの、あらゆる手段で
同業を出し抜く方法を、それぞれが模索してきたからこそ、“阿吽の呼吸”が
成立したのではないか。

 であれば、今回名前があがった業者や個人ばかりではなく、建設や土木の中
では、このような“偽装的な”仕事が、広く深く蔓延しているのではないか。
そういう不安が国民の中に出てきて不思議ではない。

 現に、同じ現場でなければ、構造設計段階、建築確認申請段階、工事施工段
階など、建設工事のさまざまな段階で、どこにでも一つぐらいは、手抜きや改
ざんが行なわれていた可能性があることを指摘する報道もある。

 このような根っ子には、この国の経済成長を支えてきた土木・建築量の激増、
高度な技術開発需要に対応して、各段階の確認・チェックの方法がついてこれ
なかった実態がある。

 要するに、行政の怠慢があったのである。金融行政でも同じだったように、
建築行政でも、はじめは構造設計でも、確認でも、検査でも、設計・施行業者
より優れた技術要員を擁してチェックが可能だったものの、経済成長とともに
要員が不足してしまったのだ。

 この問題を解決しないままに、例えば建築確認業務を民営化し、あまつさえ、
天下り先にしてしまうという、付録つきのミスを犯してしまったのだ。

 果たして今回、警察当局は、「偽装事件の本質」をどこまで明らかにするこ
とができるのか、お手並みを拝見しようではないか。
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 週刊メールジャーナル 2006年5月10日 第333号(水曜日発行)
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