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  2008/10/1  No.452   週刊メールジャーナル  読者数11652(前回)
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【お断り】

今号は「Japan On the Globe 国際派日本人養成講座」9月28日付566号
より転載します。
⇒http://www2s.biglobe.ne.jp/~nippon/


■■  国柄探訪: 皇后様御歌集に共感した欧州、アフリカの人々■■
<仏訳された皇后様の御歌集が欧州、アフリカの人々に思い出させたもの>

■1.皇后陛下の御歌に感激したアフリカの人々■

2006(平成18)年10月17日、アンゴラ共和国の有力紙『アンゴラ新聞』
は、「日本国皇后の御歌、アフリカ青年の育成に活用を!」と題した記事を掲
載した。

記事の書き出しは、こうである。

    かねてルアンダの青少年道場で指導に当たっているオディマーク・デ
    ュクロ氏が、一昨15日、弊社(アンゴラ・プレス)において講演を
    行い、このほどパリで出版された日本国皇后の歌集『セオト』を絶賛
    して、こう述べた。
    
    ここに活き活きと仏訳されたワカ(和歌)は、日本語でコトダマ(言
    霊)と呼ばれる崇高な精神を宿している。

    御歌は、ヨーロッパのみならず、アンゴラをはじめ、アフリカ中に伝
    えて、とくに青少年の情操教育に役立てるべきと信ずる----と。
    
        たとえば、デュクロ氏は講演の中で、

     「窓開けつつ聞きゐるニュース南アなる
                      アパルトヘイト法廃されしとぞ」

    の御歌を紹介して、こう語っている。

    皇后陛下という高い御身分の上から、どんなにたくさんの御公務でお
    忙しく、御自分の国と国民だけでどんなに大変か分からないほどです
    のに、南アフリカ連邦共和国のアパルトヘイト法が廃されたことで、
    こんなにも喜んでくださっているのです。
    
    皇后陛下美智子様は、こんなにも苦しんだアフリカの人々のためによ
    りよい未来を希望してくださる、自由と平和がいつまでも続くように
    と祈ってくださる、何というお心の寛さ、魂の偉大さかと、感激させ
    られるほかはありませんでした。[1,p97]

満堂の聴衆は、遠い日本の皇后様がなぜこんなにも自分たちの世界のことを考
えてくださるのか、と驚喜した。

■2.窓の外に広がる朝空■

18世紀から19世紀にかけて、欧米諸国はアフリカ大陸から多くの黒人を拉
致し、南北アメリカで奴隷とした。その数は1500万人にも上るであろうと
推定されている。

アンゴラも「飢えの国」と言われるまでに崩壊し、いまなお内戦と難民の坩堝
(るつぼ)と化している。

そのアフリカの悲劇の現代に残る象徴が、南アフリカ連邦の黒人差別政策・ア
パルトヘイト法だった。同法が廃止と決まったのは、ようやく1990 (平成
2) 年の事である。

朝、皇后様が窓を開けられたちょうどその時に、テレビかラジオのニュースで
同法廃止をお聞きになられた。

窓の外には、真っ青な朝空が広がっていたのであろう。まるで解放された黒人
たちの未来を象徴するかのように。

そんな偶然の一瞬を詠われたのも、日頃から皇后様が差別に苦しむ黒人たちの
身の上に思いを馳せ、いつか解放の日が来ることを祈られていたからである。

■3.幸(さき)くませ真幸(まさき)くませ■
    
御歌の仏訳は、フランス文学を専攻した筑波大学名誉教授・竹本忠雄氏によっ
てなされた。

皇后様に接した外国人からは「このようなお方を皇后として持つのは真に日本
人の誇りですね」という声をよく聞きながらも、日本からそれにふさわしい紹
介の努力がなされていないと、竹本氏は感じていた。

そこで芸術と自由を表看板とするフランスで、皇后陛下の御歌を紹介すること
によって、日本見直しのきっかけができるのではないか、と竹本氏は考えてい
たのである。

翻訳は、作家で日本文化に造詣の深いオリヴィエ・ジェルマントマ氏[a]など、
竹本氏と親しいフランスの文化人たちが手助けしてくれた。

竹本氏がまず仏訳の叩き台を示し、その背景や解釈を説明し、それにもとづい
て討議をする、という手順が一首一首くり返された。

最後の1首の討議は、南仏の古城で行われた。

 「幸(さき)くませ真幸(まさき)くませと人びとの
                 声渡りゆく御幸(みゆき)の町に」

竹本氏を囲んで、さてこの「幸」をどう訳すか、なかなかぴったりした単語が
見つからない。

普通の「幸せ」なら「ボヌール(英語のハッピネス)」だが、それだけのもの
ではない、という点では意見の一致を見た。

■4.「個人的幸福を超えた何物か」■

竹本氏は、この御歌を平成16(2004)年の歌会始めで拝聴した時の体験を
語った。

その時の御題が「幸」だった。

選ばれた歌の中には、成人式を挙げたばかりの女性の「彼と手をつなげること
が幸せで」という歌もあり、これなどはまさに「ハッピネス」だと述べて、次
のように続けた。

    歌の品位、響き、美しさ、すべてにおいてそうですが、何よりも「幸」
    そのものの捉えかたが違うのです。

    両陛下の行幸啓を迎えて、国民が「幸くませ真幸くませ」と歓呼する
    声にあらわれた、個人的幸福を超えた何物かを詠っていらっしゃるの
    ですから。[1,p40]

そして皇后様に続いて、歌会始の最後に朗詠された天皇陛下の御製

 「人々の幸(さち)願いつつ国の内めぐりきたりて十五年経(へ)つ」

が、皇后様の御歌と至高のアンサンブルをなしているのですと述べて、こう結
んだ。

    ここで天皇陛下が表明していらっしゃるのは、つねに一番の道徳的高
    みからの国民の幸福ということであって、御自身は完全なる無私とい
    うおこころがここに現れているのです。

ここまで話した時、古城の主ジョルジュ氏が言った。

分かった! 諸君、「フェリシテ=至福」ですよ。そのサチは! 「幸くませ
真幸くませ」は「至福を 高き至福を!」と訳したらどうでしょう。

「フェリシテ」とは、無私の心で他者の幸福を願う宗教的な響きを持つ。

日本とフランスの間に言霊の橋がかかった。
    
■5.「永遠の日本が皇后様の御姿をかりて送りよこした贈り物」■

こうして完成した仏訳御歌撰集『セオト(瀬音)−せせらぎの歌』が、200
6(平成18)年5月にパリで出版された。

それはたちまちフランス語圏の人々の心に届いた。

パリ大学文学部(ソルボンヌ)の準教授で気鋭の文学者フランソワ・ド・サン
シュロン氏は、こう評した。

    これらすべてのお作品から立ち昇る馥郁(ふくいく)たる香気、みず
    みずしい繊細さ・・・しかり、抑制、慈悲、祈り----日本の今上陛下
    の皇后美智子様の御歌を拝して思い浮かぶ言葉はこれなのである。
    [1,p75]

ジュネーブの銀行家で、仏・独・日の文学に造詣の深いピエール・ジェグリー
氏は、竹本氏あてに感想を送ってきた。

    ・・・月光、陰影、露、霧・・・。

    ポエジーは、これらの希有なる詞章より静かに浸みとおってきます。
    永遠の日本が、皇后様の御姿をかりて送りよこした贈り物でなくして
    何でしょうか。すなわち、神々より下された----。

    ・・・私はまた、こうも考えざるをえません。

    一人のお方のトータルな存在に、どれほどの神秘と試練が、かつ、た
    とえようもない心情の高貴が秘められているか、『セオト』一巻は、
    まさにこのことを証明していると。

    まことに、慈悲と、パルタージュ(痛みを分かつこと)以上の、心情
    の高貴がありえましょうか。[1,p80]
    
■6.「このような詩の妙音が、日本では今日まで存続していた」■

皇后様のお歌からフランスの人々が感じ取ったものは、異国情緒ではなく、彼
ら自身が近代化の過程で忘れ去っていた精神の高貴さだった。

フランスの文化界で、哲学者として一家をなしているフィリップ・バトレ氏は、
季刊誌『反文学』2006年秋季号に『ル・ボー・タン----晴』を発表して、
こう述べた。

    ・・・一人の皇后のお出しになったこの詩集に、エキゾチックなもの
    は皆無である。
    
    それどころか、これらの詩は、きわめて親しみやすいものばかりなの
    だ。

    ただし、四季の秩序と、心のたゆたいを歌うことに秀でた、この上な
    き高貴なるお方によって親しみふかくされた、ということが大事なの
    だが。

    西洋においても、その昔、スペインのカスティリア王国の賢人王アル
    フォンソのごとく、・・・そのような世界を啓示してくれた王侯も無
    きにしもあらずだったが、いまは遠い物語となってしまった。

    ところが、ここに素晴らしいことに、このような詩の妙音が、日本で
    は今日まで存続していたのである。[1,p87]

■7.「アフリカの心と相通ずるものがある」■

皇后陛下の御歌に、自分たちの伝統を思い出した、という点では、冒頭のオデ
ィマーク・デュクロ氏も同様だ。

    ・・・『セオト』を拝誦しているうちに、私は、ヤマト民族----古代
    日本民族の名です----の古い古い感情が、いまなお、そのなかに息づ
    いていると感じるようになりました。
    
    そしてそこには、いつからとも知れない遠い過去から、リズミカルな
    言葉をもって語り伝えられてきた、アフリカの心と相通ずるものがあ
    ると、気づかされたのです。

    たとえば、『虹』と題する御歌がございます。

     「喜びは分かつべくあらむ人びとの
                 虹いま空にありと言ひつつ」

    これを拝誦して私は、こういうナイジェリアのことわざを思いだしま
    した。

            分かち持つ----
                これぞ 一番の大事
                    覚えよ この言葉[1,p99]
    
■8.「サムライの日本」特集■

2007 (平成19) 年7月1日、パリのキオスクにいっせいに並んだ隔月誌
『新歴史評論』は、「サムライの日本」特集と銘打って、表紙には甲冑姿の武
士を掲げた。

同誌主幹ドミニック・ヴェネール氏が『セオト』に感動して、この特集を企画
したのだった。氏は巻頭論文「日本−華と鋼鉄(はがね)」でこう述べた。
 [1,p115]

    本誌日本特集号を編むにあたり、編集子は、今上陛下の皇后美智子様
    の『セオト』を再読三読させていただいた。

    背の君、今上陛下に至るまで、日本の歴代天皇は、神話の伝える太陽
    女神アマテラス以来、なんと125代にもわたって万世一系を貫いて
    きたのだから、驚きである。

    自らの過去を忘却否定するのに躍起の国、フランスの子らたるわれら、
    こう聞いて、ただ、茫然自失のほかはない。

    ・・・

    そしてまさに、この黙示録的爆撃(JOG注:原爆投下)から50年目、
    1995年に、皇后は限りなき抑制をこめて次のように歌っておられ
    るのだ。

     「被曝五十年広島の地に静かにも
                雨降り注ぐ雨の香のして」

    その前年のことであった、皇后が、それより半世紀前、硫黄島の死闘
    で日本軍将兵が玉砕をとげたことを偲び、こう手向けられたのは。

     「慰霊地は今安らかに水をたたふ
                如何ばかり君ら水を欲(ほ)りけむ」

    もう一首、終戦 (1945年) 記念日に詠まれた御作品を掲げよう。

     「海陸(うみくが)のいづへを知らず姿なき
            あまたの御霊(みたま)国護(まも)るらむ」
    
■9.自らの根っこを深く辿っていけば■

ヴェネール氏は、論文をこう結んでいる。

    嘆きなく、憾(うら)みなく、涙なし。

    いや、涙は、われら読者の眼に溢れざるをえないのだ。
    
    一語一語の重み、わけても「あまたの御霊 国護るらむ」
    の喚起する感動に----。

    これらの調べこそ、つつましき情感をもって歌われた永遠の大和魂へ
    の讃歌なのだ。
    
    どうしてわれら、これに感奮なきを得よう。

    懶惰に眠るヨーロッパ諸国の民族魂を目覚ませるべく、あらゆる逆風
    に抗して挺身しつつあるわれらとして----。[1,p117]

ドミニック・ヴェネール氏は、30冊もの著書を持つ歴史家・作家であり、
「騎士道再見」や、「ルーツからのヨーロッパ再発見」などで、「ヨーロッパ
諸国の民族魂を目覚ませるべく」活発な活動を続けている。

そのヴェネール氏が、古代からの大和心に根ざした皇后様の御歌に、感奮を覚
えたのである。

自らの根っこを深く辿っていけば、それは他民族の根っこにつながっていく。

皇后様の御歌集への欧州やアフリカの人々の共感は、この事を実証しているの
である。

      (文責:伊勢雅臣)

■リンク■
a. JOG(070) フランスからの日本待望論
  現代人をして守銭奴以外の何者かたらしめるためには世界は日本を必要と
  している。
  ⇒http://www2s.biglobe.ne.jp/~nippon/jogbd_h11_1/jog070.html
  
b. JOG(069) 平和の架け橋
  他者との架け橋を築くための根っこと翼
  ⇒http://www2s.biglobe.ne.jp/~nippon/jogbd_h11_1/jog069.html
  

■参考■(お勧め度、★★★★:必読〜★:専門家向け)
  →アドレスをクリックすると、本の紹介画面に飛びます。

1. 竹本忠雄『皇后宮美智子さま 祈りの御歌』★★★、扶桑社、H20
  ⇒http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/459405658X/japanontheg01-22%22


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