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   2009/8/19    No.495   週刊メールジャーナル   読者数10707(前回)
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●特別背任の次は「ブラックホール」の解明に向かう井上工業事件
(会員制経済情報誌『現代産業情報』8月1日号より転載)

警視庁組織犯罪対策三課は、昨年10月に破綻した井上工業(本社・群馬県高
崎市)の宮崎純行元社長ら経営陣に、特別背任の疑いがあるとして強制捜査に
着手したが、本線というべきは、事件化した流出資金の“穴埋め”のために実
施した増資において、取りついた金融ブローカーが背後の勢力と組んで仕掛け
た資産収奪の解明にある。

組対三課の調べによると、2007年6月、社長に就任した宮崎氏は、井上工
業の再建より、プロスGという住宅会社で自らが手がけていたマンション事業
の再建を優先、十分な担保を取らずに11億円を融資、4億5000万円を焦
げ付かせている。

ファンドが放出した井上工業株を買占めて筆頭株主に躍り出た宮崎氏は、事業
再建は二の次で、企業価値を高めて株を売り抜けるのが目的だった。

だから、同じ群馬の佐田建設(東証一部)の株を買い占めて、東証二部の井上
工業株との相乗効果を狙った。

この買い占めは、佐田建設の抵抗にあって失敗、信用取引の担保に差し入れて
いた井上工業株は、追証を支払えずに叩き売られて株価が暴落、結局、宮崎氏
は何一つ成果を上げられないまま、08年7月、取締役会で解任され、宮崎氏
の息子が経営するプロスGへの融資が焦げ付いたままであることから、特別背
任容疑をかけられた。

この捜査は、それほど難しいものではない。
仕手株崩れを買い占め、ワンマン経営者となった宮崎氏が、会社資産を私的流
用したという証言、証拠は揃っている。

ピーク時の91年3月期に617億円を売り上げたこともある井上工業は、1
888年(明治21年)創業の群馬の名門で、田中角栄元首相が新潟から34
年(昭和9年)に上京した際、井上工業東京支店に住み込みで、仕事を学んだ
という歴史がある。

その「地方の名門」を潰した責任を、経営陣に取らせようという捜査が始まる
のは自明のことだが、問題はむしろそこから先だった。

宮崎氏を放逐した取締役会は、前任の中村剛氏を返り咲かせて社長に就任させ、
30億円の資本調達で会社再建を図ったが、これが命取りとなった。

同社元幹部が、鎮痛の面持ちで振り返る。
「宮崎さんを追い出したのはいいにしても、資金繰りのメドがまったく立たな
かった。増資で乗り切るしかないが、破綻寸前の当社の株を引き受ける、まと
もな投資家はいない。

結局、社長は怪しげな金融ブローカーを頼り、増資資金を奪われたうえに、不
動産まで収奪された。

経営陣は完全にブローカーとその背後の闇勢力に食い込まれ、手出しができな
くなっており、会社再建ではなく、破算で逃れるしかなかった」

順を追って説明しよう。
増資による資金調達に奔走していた中村氏は、昨年8月末、Tという金融ブロ
ーカーに会い、「調達の段取り」をつけてもらうことで合意、Tは金融ブロー
カーの奥村英氏が代表執行組合員を務めるアップル有限責任事業組合と、花村
貞夫氏が業務執行組合員の東証投資有限責任組合という、二つの“受け皿”を
用意した。

8月28日に開いた取締役会で増資は決まり、9月24日にアップルが18億
円の第三者割当増資を引き受け、東証が12億円の新株予約権を引き受けるこ
とになった。

これで井上工業は一息ついたが、それだけではなくTは、8月末や9月5日の
資金繰りに協力、奥村と花村といった金融ブローカーともども信頼を得た。

だが、やがて本性を見せ始める。
9月10日になると奥村氏は、「会社資産(合材工場)を担保に貸して欲しい。
増資後、必ず返却する」と、申し入れ、中村氏ら経営陣はこれに同意、9月2
2日になると奥村氏は、高崎市内と大宮市内の社宅の「一時貸出」を申し入れ、
「売買の形式を取るけど借りるだけ」と説得、経営陣はそれを呑んだ。

なぜ、安易に応じたのか。
「とにかく9月24日の増資を成功させたい一心だった。奥村たちに逃げられ
るのが怖かったし、合材工場は担保入れ、社宅も奥村のリケンという会社に預
けるだけで、売却するという認識はなかった」(前出の幹部)

増資を“人質”に取られていたようなものだという説明。
首を傾げたくなるが、さらに納得できないのは、増資前日の9月23日、奥村
やその側近の藤本順二氏に呼び出された井上工業幹部が、「18億円は用意で
きない。数日のうちに用意するからそれまで貸してくれ」といわれ、15億2
000万円の会社資金を貸し出すことを決めたことである。

その結果、9月24日、18億2000万円の増資完了を発表したが、そのう
ち15億2000万円は井上工業のカネがアップルを通過して戻ってきただけ
で、アップルが純粋に用意したのは3億円。しかもそのうちの1億8000万
円は、「増資手数料」として取り上げられた。

「資本のハイエナ」と呼ばれる連中の会社資産にたかるハイエナぶりに驚かさ
れることは少なくないが、ここまで激しい資産収奪は聞いたことがない。

結局、約束された30億円の増資のうち、実行されたのは1億2000万円で、
18億円分の株券と、5億円以上の不動産は奪われた。

ブラックホールに吸い込まれたのは、金融ブローカーの背後に大物総会屋、暴
力団系金融業者などがいて、経営陣らが身動き出来なかったからだと言われて
いる。

組対三課が捜査に乗り出したのも、そうした背景からで、この前代未聞の資産
収奪劇は、広範囲に展開、各方面に波紋を広げることになりそうだ。

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